「がんになったら、運動は控えて安静にしたほうがいいのでは?」
「治療中や治療後に体を動かしても大丈夫?」
このような疑問を持っている方もいるのではないでしょうか。
がん患者に対する運動は、これまでも体力や身体機能の維持、がんに伴う疲労の改善、生活の質(QOL)の向上などを目的として取り入れられてきました。
そして2026年9月、British Journal of Sports Medicine(BJSM)に、さらに注目したい研究が発表されました。
21件のランダム化比較試験(RCT)、合計8,449人のがん患者を分析したところ、計画的に運動を行ったグループでは、生存や再発に関する複数の指標で良好な結果が示されたのです。
ただし、
「運動すれば、がんが治る」
「すべてのがん患者が同じ運動をすればいい」
という意味ではありません。

私は体育教師・パーソナルトレーナーとして、運動には大きな可能性があると考える一方、病気や治療中の運動では「安全に行えるか」を最優先にすることが大切だと考えています。
この記事では、最新研究で分かったことと、がん治療中・治療後に運動を考える際の注意点を、できるだけ分かりやすく解説します。
- がん患者に運動がすすめられる理由
- 2026年に発表された最新研究の内容
- 運動と死亡・再発リスクとの関係
- 研究結果を見るときの注意点
- がん治療中・治療後に運動するときの考え方
- 安全に運動するために確認したいポイント
がんになったら運動は控えたほうがいい?
「病気になったら安静にする」
以前は、このようなイメージを持っていた方も多いかもしれません。
しかし現在では、がんの状態や治療内容、体調などを確認しながら、適切に体を動かすことが重要だと考えられています。
国立がん研究センターの「がん情報サービス」でも、がんのリハビリテーションは、がんや治療によって低下した身体機能の維持・向上や、よりよい生活を送ることなどを目的として行われると説明されています。
また、リハビリテーションは治療後だけに行うものではありません。
治療前、治療中、治療後、再発・転移後など、それぞれの段階に応じて目的を変えながら行われます。
つまり、
「がんになった=動かないほうがいい」ではなく、「その人の状態に合わせて、どのように体を動かすかを考える」
ことが大切なのです。
最新研究で「運動と生存・再発」の関係が報告された
2026年9月15日、British Journal of Sports Medicineに「Structured exercise interventions and survival outcomes in patients with cancer」というシステマティックレビュー・メタアナリシスが発表されました。
報告の詳細を知りたい方はこちら▲を押して下さい
21件のRCT・8,449人を分析
研究では、2025年12月までに発表された研究を検索し、がんと診断された成人に対して計画的な運動プログラムを行ったランダム化比較試験(RCT)21件が分析されました。
参加者は合計8,449人。
平均年齢は54歳で、乳がんを対象とした研究が最も多く、次いで大腸がん、膵臓がんなどが含まれていました。
RCTとは、参加者を無作為にグループ分けして介入の効果を比較する研究方法です。
運動している人と運動していない人を単純に比べる観察研究よりも、運動そのものの影響を検討しやすいという特徴があります。
死亡・再発リスクはどう変わった?
研究では、運動を行ったグループで次のような結果が示されました。
| 評価項目 | 運動群の結果 |
|---|---|
| 全生存期間 | 死亡リスク約23%低下 |
| 無病生存期間 | 再発・新たながん・死亡のリスク約17%低下 |
| 全死亡 | 約18%低下 |
| がんによる死亡 | 約26%低下 |
さらに、運動プログラムの70%以上を実施できた人や、早期がんの人、有酸素運動または有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせたプログラムで、より大きな効果がみられる傾向がありました。
これまで「体力を維持する」「疲労を軽減する」といった役割が中心に語られてきた運動が、生存や再発にも関係する可能性をRCTの統合解析で示した点は注目に値します。
「23%低下」の意味には注意
ここは、とても大切なポイントです。
「死亡リスクが23%低下した」という結果は、
「運動すれば100人中23人が助かる」
という意味ではありません。
これはグループ間の「相対的なリスク」を比較した数値です。
実際に何人の死亡を防げるかという絶対的な効果は、がんの種類やステージ、治療、もともとのリスクなどによって変わります。
また、今回の研究結果だけから「運動そのものが死亡を23%減らす」とすべてのがん患者に当てはめることもできません。
これまで分かっていた「がんと運動」の効果
今回の研究以前から、がん患者に対する運動にはさまざまなメリットが報告されています。
体力・身体機能を維持する
がん治療中は、手術や薬物療法、放射線治療などの影響によって体を動かす機会が減り、筋力や持久力が低下することがあります。
体力が低下する
↓
動くのがつらくなる
↓
さらに活動量が減る
↓
筋力や体力がさらに落ちる
この悪循環に陥ることがあります。
そのため、体調に合わせて適切に体を動かし、できる範囲で身体機能を維持することが重要になります。
疲労やQOLの改善を支える
がん患者に対する運動については、身体機能だけでなく、がん関連疲労や生活の質(QOL)などへのメリットも研究されてきました。
「疲れているなら動かないほうがいい」と思うかもしれませんが、状態によっては適切な運動を取り入れることが回復を支える選択肢になります。
もちろん、無理をして運動するという意味ではありません。
その日の体調や治療状況に合わせて運動量を調整することが重要です。
なぜ運動が生存や再発に関係する可能性がある?
「体を動かすだけで、なぜがんの生存率や再発に関係するの?」
と思う方もいるでしょう。
現時点では、ひとつの仕組みだけで説明できるわけではありません。
研究では、
- 免疫機能への作用
- 慢性的な炎症への作用
- インスリンなど代謝への作用
- 性ホルモンへの作用
- 腫瘍への血流
- 体組成や心肺機能の改善
など、複数の仕組みが考えられています。
たとえば運動によって筋肉がブドウ糖を利用しやすくなったり、免疫細胞の働きに影響したりすることなどが研究されています。
ただし注意したいのは、
今回の研究によって「この仕組みがあるから生存率が改善した」と証明されたわけではない
ということです。
生物学的には十分考えられる仮説がありますが、「なぜ生存や再発に影響するのか」については、今後さらに研究が必要です。
では、どんな運動をすればいい?
今回の研究だけから、
「週○回、○分やれば再発を防げる」
という具体的な運動量を決めることはできません。
研究によって運動の種類、強度、期間などが異なるためです。
ここを無理に一つの数字にまとめないことが大切です。
そのうえで、がんのリハビリテーションでは有酸素運動や筋力トレーニングなどが取り入れられています。
有酸素運動
代表的なのは、
- ウォーキング
- 自転車運動
- 軽いエアロビック運動
などです。
運動習慣がなかった人なら、いきなり長時間歩く必要はありません。
まずは体調を確認しながら、短時間のウォーキングなどから始める方法があります。
筋力トレーニング
治療中・治療後の活動量低下によって筋力が落ちている場合には、適切な筋力トレーニングも選択肢になります。
自分の体重を利用した運動、ゴムバンド、軽いダンベル、マシンなどさまざまな方法があります。
ただし、がんの種類や治療状況によっては避けるべき動作や負荷があります。
一般的な健康目的の筋トレと同じ感覚で負荷を設定しないことが重要です。
最初から一般的な運動基準を目指さなくていい
国立がん研究センターでは、運動によるリハビリテーションの一例として、週150分以上の中等度の有酸素運動と、週2〜3日の筋力トレーニングなどを紹介しています。
しかし、治療中の人や体力が落ちている人が、最初からこの量を達成する必要はありません。
大切なのは、
「基準を達成すること」より「今の自分に安全にできる量を見つけること」
です。
5分歩くところから始める人もいれば、医療者の管理のもとで運動プログラムを行う人もいます。
スタート地点は人それぞれで構いません。
がん治療中・治療後の運動で特に注意したいこと
今回の記事で、私が最も伝えたい部分です。
運動にメリットが期待できるからといって、がん患者が自己判断で運動量を増やすことはおすすめできません。
自己判断で運動量を増やさない
がんは種類やステージだけでなく、
- 手術
- 抗がん薬
- 放射線治療
- ホルモン療法
- その他の治療
などによって体への影響が異なります。
さらに同じ治療を受けていても、体力や症状には個人差があります。
「運動は体にいいから」と、体調を無視して頑張る必要はありません。
骨転移・貧血・手術後などでは特に注意する
特に、
- 骨転移がある
- 強い貧血がある
- 発熱や感染症状がある
- 手術直後である
- 強い痛みがある
- めまいや息苦しさがある
- 強い疲労が続いている
- バランス能力が低下している
といった場合は、一般的な運動方法が適さない可能性があります。
たとえば骨転移がある場合、病変の場所によっては骨折リスクを考えて運動の種類や負荷を変更する必要があります。
医療と運動を分けて考えない
がん経験者への運動指導では、「何ができるか」だけではなく、
「何をしてはいけない可能性があるか」
を確認することも重要です。
そのため、必要に応じて主治医、理学療法士などのリハビリテーション専門職、がん患者への運動指導に知識のある運動専門職などが連携することが理想です。
体育教師×トレーナーとして伝えたいこと
今回の研究を見て、改めて感じるのは、運動は「病気にならないため」だけに行うものではないということです。
健康づくりというと、
「太らないため」
「生活習慣病にならないため」
「体力をつけるため」
といった予防のイメージが強いと思います。
もちろん、それも大切です。
しかし運動には、病気になった後の身体機能や生活を支える役割もあります。
今回の研究では、さらに生存や再発という重要な結果についても、有益な可能性が示されました。



一方で、私は「運動は体にいいから、頑張れば頑張るほどいい」とは考えていません。
特に治療中や治療後は、その人の体調・治療・体力に合った運動を、安全に続けることが何より大切です。
これは健康な40代・50代の運動にも共通しています。
ハードな運動を一時的に頑張るより、自分に合った運動を無理なく続ける。
一生動ける体づくりでは、その考え方を大切にしてほしいと思います。
よくある質問
まとめ|運動は「予防」だけではなく治療・回復を支える存在へ
2026年に発表されたシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、21件のRCT・8,449人を分析した結果、構造化された運動を行ったグループで、生存や再発に関する複数の指標が良好でした。
ポイントを整理すると、
- 全生存期間では死亡リスクが約23%低下
- 無病生存期間では再発・新たながん・死亡のリスクが約17%低下
- がんによる死亡は約26%低下
- 有酸素運動や有酸素運動+筋力トレーニングなどで良好な傾向
- ただし、がん種や研究対象には偏りがある
- 筋トレ単独の効果がないとは判断できない
- 運動はがん治療の代わりではない
- 治療中・治療後は医療者と相談しながら安全性を優先する
ということになります。



体育教師・パーソナルトレーナーとしての結論は、
「運動は病気を予防するためだけでなく、病気になった後の生活・回復、そして将来的には治療を支える重要な要素として、ますます存在感が大きくなっていく」
ということです。
ただし、運動は薬と同じように「量」や「方法」が重要です。
特に治療中・治療後は、周りの人と比べず、主治医や専門職と相談しながら「今の自分にできる運動」から始めてください。
これから運動習慣をつくりたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
自宅で無理なく運動できる環境を整えたい方は、私がまとめている自宅トレーニング用品の記事やAmazonストアフロントも参考にしてみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考にした公的機関・論文
- Tzang CC, et al. Structured exercise interventions and survival outcomes in patients with cancer: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. British Journal of Sports Medicine. 2026.
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんとリハビリテーション医療」
- American College of Sports Medicine(ACSM)Cancer & Exercise / Moving Through Cancer
- Courneya KS, et al. Structured Exercise after Adjuvant Chemotherapy for Colon Cancer. New England Journal of Medicine.


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