「心不全になったら、運動は控えたほうがいいの?」
「ウォーキングくらいなら大丈夫?」
「筋トレをすると心臓に負担がかかりそう……」
心不全と聞くと、「できるだけ安静にしたほうがいい」と考える方もいるかもしれません。
しかし現在では、病状が安定している心不全患者に対して、適切に管理された運動を行うことは心臓リハビリテーションの重要な要素とされています。
2026年9月に発表された研究でも、HFpEF(左室駆出率が保たれた心不全)の患者では、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることで運動能力が改善することが示されました。
ただし、ここで大切なのは、
「心不全でも運動したほうがいい=自分の判断で好きな運動を始めていい」
という意味ではないことです。
心不全の状態や治療内容は一人ひとり異なります。運動を始める場合は、主治医や心臓リハビリテーションの専門家と相談し、自分の状態に合った運動を行うことが前提です。
この記事では、体育教師・パーソナルトレーナーの視点も交えながら、心不全と運動の関係を最新研究をもとに分かりやすく解説します。
- 心不全でも運動を行う意味
- 有酸素運動と筋トレを組み合わせる効果
- HIITと中強度運動の違い
- 心臓の数値と「動ける能力」の違い
- 心不全の人が運動するときの注意点
心不全でも運動していい?
結論からいうと、心不全だからといって「運動はすべて禁止」というわけではありません。
病状が安定している場合には、適切な運動を含む心臓リハビリテーションが行われます。
心臓リハビリテーションとは、単に運動するだけではありません。
運動療法をはじめ、生活習慣の改善、病気についての学習、服薬管理などを組み合わせながら、再発・悪化の予防や生活の質の向上を目指す取り組みです。
2026年に発表された欧州心臓病学会(ESC)の心臓リハビリテーションガイドラインでも、HFpEF患者に対する心臓リハビリテーションは、身体機能や健康関連QOLを改善する目的で推奨されています。
日本循環器学会・日本心臓リハビリテーション学会のガイドラインでも、心不全患者に対する有酸素運動やレジスタンストレーニング(筋力トレーニング)を含む運動療法について解説されています。
つまり、「心不全だから安静にしておけばいい」と一律に考えるのではなく、
「現在の状態に合わせて、安全に身体を動かすにはどうすればいいか」
を考えることが重要です。
最新研究|HFpEFでは有酸素運動+筋トレで運動能力が改善
今回注目したのが、2026年9月15日に『ESC Heart Failure』で公開されたネットワークメタアナリシスです。
対象となったのは、HFpEFの成人を対象に運動の効果を調べた15件のランダム化比較試験(RCT)です。
重複を除いた解析対象は1,161人。
平均年齢は69歳で、63%が女性でした。
研究では複数の運動方法を比較し、特に「peak VO₂(最高酸素摂取量)」がどの程度変化するかを調べています。
peak VO₂とは、運動中に身体がどのくらい酸素を取り込み、利用できるかを示す指標です。
簡単にいえば、「どのくらい身体を動かせるか」という全身持久力を評価する代表的な指標のひとつです。
有酸素運動+筋トレはpeak VO₂が+2.61mL/kg/分
研究では、主に次のような改善が報告されました。
| 運動方法 | peak VO₂の改善 |
|---|---|
| 有酸素運動+筋力トレーニング | +2.61mL/kg/分 |
| HIIT | +2.52mL/kg/分 |
| 中強度持続運動 | +2.07mL/kg/分 |
研究者らが用いた臨床的に意味のある変化量は、約1.0mL/kg/分です。
今回の結果では、3つの運動方法すべてで、それを上回る改善が示されました。
ここで注目したいのが、有酸素運動だけではなく「筋力トレーニングを組み合わせる」という選択肢です。
心不全というと心臓ばかりに注目しがちですが、日常生活を自分の力で動くためには、心肺機能だけでなく脚や体幹などの筋力も必要です。
そのため、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせる考え方は、「一生動ける体をつくる」という視点でも非常に重要だと考えています。
▶ 有酸素運動そのものについて詳しく知りたい方は「有酸素運動の基本」も参考にしてください。
▶筋力トレーニングのメリットと注意点は「筋トレのメリット・デメリット」で詳しく解説しています。
「HIITが一番」と考える必要はない
結果だけを見ると、
「HIITもかなり効果があるなら、強度の高い運動をしたほうがいいのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、今回の研究から「心不全ならHIITが一番おすすめ」と結論づけることはできません。
有酸素運動+筋トレ、HIIT、中強度持続運動のいずれでも運動能力の改善が確認されているからです。
また、研究によって参加者数や運動内容などが異なり、peak VO₂については研究間のばらつきも比較的大きくなっています。
一部の運動方法については、小規模な研究しかありません。
そのため、「どの運動が一番か?」だけに注目するよりも、「自分の病状や体力に合った運動を、安全に続けられるか?」を考えるほうが重要です。
特にHIITは高強度運動と休息を繰り返す方法です。
健康な人のトレーニングでは活用されますが、心不全患者が一般のジムなどで自己判断して行うことはおすすめできません。
心臓の数値が変わらなくても「動ける能力」は改善する
今回の研究でもうひとつ重要なのが、心臓そのものを評価する一部の指標では明確な改善が確認されなかった点です。
たとえば、
・左室駆出率(LVEF)
・BNP
・左房容積指数
では、各運動方法による明確な改善は確認されませんでした。
それでもpeak VO₂は改善しています。
これは非常に興味深いポイントです。
運動の目的は「検査数値を変えること」だけではありません。
- 歩く。
- 階段を上る。
- 買い物へ行く。
- 趣味を楽しむ。
- 旅行に出かける。
こうした日常生活を支えているのは、心臓だけではなく、肺、血管、筋肉などを含めた身体全体の機能です。
心臓の数値に大きな変化がなくても、「身体を動かせる能力」が改善する可能性があります。
なぜ心不全に運動が必要なのか
心不全では心臓だけでなく体力や筋力も重要
心不全では、息切れや疲労などによって活動量が減ることがあります。
身体を動かさない期間が続けば、当然ながら筋力や持久力も低下しやすくなります。
すると、
体力が落ちる
↓
動くのがつらくなる
↓
さらに動かなくなる
↓
筋力・体力がさらに低下する
という悪循環につながる可能性があります。
だからこそ、「心臓だけを見る」のではなく、日常生活を送るための身体機能を維持・改善するという視点が重要です。
特に年齢を重ねるほど、筋力低下やフレイルなども考える必要があります。
心臓リハビリテーションという考え方
心不全患者の運動を考えるうえで知っておきたいのが「心臓リハビリテーション」です。
心臓リハビリテーションでは、医療スタッフによる評価・管理のもとで、その人に適した運動内容を考えます。
これは一般的なスポーツジムで、
「今日は調子がいいから重い重量に挑戦しよう」
「HIITが効果的らしいからやってみよう」
と自分だけで判断するのとは意味が違います。
心不全ではどんな運動をする?
具体的な運動処方は主治医や心臓リハビリテーションの専門家が決める必要があります。
ここでは、代表的な運動の種類だけを整理しておきましょう。
有酸素運動
代表的なのは、
- ウォーキング
- 自転車エルゴメーター
などです。
有酸素運動は、長時間継続できる比較的リズミカルな運動です。
心不全患者の運動療法でも広く用いられています。
運動初心者の場合も、いきなり走る必要があるわけではありません。
体力や病状に合わせて低い負荷から始め、適切に調整していくことが基本です。
▶一般的なウォーキングの方法については「ウォーキング完全ガイド」で詳しく解説しています。
筋力トレーニング
筋力トレーニングは、
- 立つ
- 歩く
- 階段を上る
- 物を持つ
といった日常生活に必要な筋力を維持するためにも重要です。
日本循環器学会・日本心臓リハビリテーション学会のガイドラインでも、有酸素運動とレジスタンストレーニングを組み合わせる考え方が示されています。
ただし、心不全の人が一般的な筋トレメニューをそのまま行ってよいという意味ではありません。
重量、回数、セット数、休憩時間、呼吸方法なども含めて、状態に合わせた調整が必要です。
有酸素運動+筋トレ
今回の最新研究で特に注目したいのが、この組み合わせです。
有酸素運動によって持久力を刺激しながら、筋力トレーニングで日常生活に必要な筋力を維持・改善していく。
「歩ける体力」と「身体を支える筋力」の両方を考えるイメージです。
これは心不全に限らず、40代・50代以降の「動ける体づくり」でも大切な考え方です。
▶一般の方向けに有酸素運動と筋トレの組み合わせを詳しく知りたい方は「筋トレ+有酸素は筋肥大を邪魔する?」も参考にしてください。
HIITは自己判断で行わない
HIITとは、強度の高い運動と低強度運動・休息を交互に行うトレーニング方法です。
今回の研究では、HIITでもpeak VO₂の改善が示されています。
ただし、
「研究で効果が出ている=誰でも安全にできる」
ではありません。
研究では一定の条件を満たした患者に対して、決められた方法で運動が行われています。
心不全患者が、「HIITが効くらしいから、今日から全力で運動しよう」と考えるのは危険です。
体育教師×トレーナーとして伝えたい運動の考え方

私は体育教師・パーソナルトレーナーとして、「運動は強ければ強いほど良い」とは考えていません。
大切なのは、「その人に必要な運動を、その人が安全に続けられること」です。
これは健康な人でも同じです。
運動不足だった人が、いきなり毎日走ったり、重い重量で筋トレしたりすれば、身体を痛めて続かなくなる可能性があります。
まして心不全などの心疾患がある場合は、より慎重な判断が必要です。
今回の研究でも、有酸素運動+筋トレ、HIIT、中強度持続運動の複数の方法で運動能力の改善が確認されました。
だからこそ、「一番効く運動を探す」より、「自分の身体に合った運動を、安全に継続する」ことを大切にしてほしいと思います。
心不全の人が運動するときの注意点
一般ジムで自己判断して始めない
心不全患者への運動処方は、一般的な健康づくりとは分けて考える必要があります。
主治医や心臓リハビリテーションの専門家に、
- どんな運動なら行ってよいか
- どの程度の強度が適切か
- どんな症状が出たら中止するか
を確認してから始めましょう。
必要に応じて運動負荷試験などを行い、身体が運動にどう反応するかを確認したうえで運動内容が決められることもあります。
こんな症状があれば運動を中止する
運動中や運動後に、
- 胸の痛みや圧迫感
- めまい、ふらつき
- 普段と違う強い息切れ
- 強い疲労感
- 速すぎる、または不規則な動悸
などが現れた場合は、無理に続けないことが重要です。
体調が悪化している日は無理をしない
心不全では日々の体調変化を確認することも重要です。
たとえば、
- 普段より息苦しい
- 脚や足首のむくみが増えた
- 急に体重が増えた
- いつも以上に疲れる
- 横になると息苦しい
など、普段と違う変化がある場合には、運動量を自己判断で増やさず、医療スタッフへ相談してください。
「毎日運動すると決めたから、今日は体調が悪くてもやる」という考え方は必要ありません。
健康づくりでは「休む判断」も大切です。
心不全と運動についてよくある質問
まとめ|「心不全だから安静」ではなく、自分に合った運動を
今回のポイントをまとめます。
- 心不全だからといって、すべての運動を避けるわけではない
- HFpEFでは、有酸素運動+筋トレ、HIIT、中強度持続運動で運動能力の改善が示されている
- 有酸素運動+筋トレでは、peak VO₂が+2.61mL/kg/分改善した
- 心臓の一部の検査値が変わらなくても、身体を動かす能力が改善する可能性がある
- HIITだけが特別に優れているとはいえない
- 心不全患者の運動は、主治医・心臓リハビリテーションとの連携が前提
体育教師・パーソナルトレーナーとして特に伝えたいのは、
「運動は、きついほど良いわけではない」
ということです。
健康づくりで本当に大切なのは、自分の身体に合った方法を安全に続けることです。
心不全がある場合も、「運動する・しない」の二択で考えるのではなく、主治医や心臓リハビリテーションの専門家と相談しながら、「今の自分にはどんな運動ができるのか」を考えてみてください。
心不全ではなく、一般的な健康づくりとして運動を始めたい40代・50代の方は、「一生動ける体をつくるための完全ガイド」も参考にしてください。
自宅での運動環境を整えたい健康な方や、医療スタッフから自宅運動を許可されている方は、「家トレグッズ7選」やAmazonストアフロントも参考にしてみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考にした公的機関・論文
・Zheng J, et al. Exercise Training for Patients with Heart Failure with Preserved Ejection Fraction: A Systematic Review and Bayesian Network Meta-Analysis. ESC Heart Failure. 2026.
・European Society of Cardiology. 2026 ESC Guidelines on cardiac rehabilitation.
・日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会. 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン.
・日本循環器学会/日本心不全学会. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン.


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